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音楽の海岸

川上弘美『神様2011』

▼川上弘美の『神様2011』を読了。▼読み終わったといっても、スカスカの構成で50ページにも充たない本なのだが。▼川上弘美がデビューのきっかけとなったパスカル短篇文学新人賞受賞作『神様』とその2011年版の2篇を並べて収録したもの。▼「わたし」が近所に引っ越してきた「くま」に誘われて一緒に川原へ散歩に行く話。▼それ以下でも以上でもない、ただそれだけの話なのだが、そこに「くま」という異物を放り込むだけで、ごく当たり前の風景がとくべつなもののように、すべてのものたちには神様が宿っているかのように映る。▼一方『神様2011』は先の福島第一原発事故を踏まえて、同じストーリーを改作したもの。▼「累積被爆量」や「ガイガーカウンター」といった言葉がそこに付け加えられるだけで、風景はまったく違った意味合いを帯びてくる。▼市井の人々の営みや小さな幸せは消え去り、神様はもはやどこにも存在しないかのようだ。▼「日常は続いてゆく、けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう可能性をもつものだ」と作者はあとがきで述べている。
by ok-computer | 2012-03-22 18:07 | | Trackback | Comments(0)