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音楽の海岸

川上弘美『神様』

▼川上弘美の『神様』を読了。▼先日読んだ『神様2011』のオリジナル・ヴァージョンが収録された短編集。▼奇妙なアイデアと不思議な読後感。▼『神様』に出てくる「くま」のように、他の作品でも「河童」「人魚」「死んだ叔父」がごく当たり前のもののように出てくる。▼日常のなかに異物を置くことによって、ありふれた物事を違った角度から再検証し、そこから当てられる光によって思いもよらない風景が立ち現れてくる。▼ただ、『神様』の感情的にも文章的にも切り詰められたスタイルに較べると、それ以外の作品はより饒舌であり、より叙情的なものになっているように感じられる。▼それゆえに『神様』という短篇の凄さが益々際立った印象もあるが、他の作品は読む価値がないと言っているわけではもちろんない。▼叙情的になったスタイルと、川上弘美という作家ならではの「ずらし」のような感覚が巧くマッチングして、『神様』だけでは判然としなかった物語作家としての確かな資質が読み取りやすくなっているように思う。▼なかでも『夏休み』と『クリスマス』の2篇は(飛び道具のような設定を乗り越えることができれば)驚くほどストレートな感動をもたらしてくれる。
by ok-computer | 2012-04-01 21:46 | | Trackback | Comments(0)