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小川洋子『ミーナの行進』

▼小川洋子の『ミーナの行進』を読了。▼他の小説に較べるといつもの小川テイストみたいなものがやや抑えられたノスタルジックな印象の作品。▼ウィキペディアで調べてみると、この作品の前が『ブラフマンの埋葬』で、そのもうひとつ前が『博士の愛した数式』ということなので、一連の流れが見えてくるというか、それ以前の小骨が喉に引っ掛かるような違和感と悪意が見え隠れする彼女独自の世界観から、もう一歩外へ踏み出していこうとする意志のようなものが見えてくるような気がする。▼ミュージシャンに較べると、作家の作品を時系列に並べて読んだり考えたりすることが少ないのだが、その小説がどの辺りの時期に属するのかということは、その作家の作品を読み解くうえで重要なことなのかもしれない。▼『ミーナの行進』の話に戻ると、語り手である朋子のいとこのミーナがコビトカバに乗って学校に通うという設定が本作唯一の小川ワールド印といえるのかもしれないが、そのミーナが収集しているマッチ箱に描かれた絵を基にして書く物語が随所に配置され、それが単に物語内物語というだけでなく、ちゃんと本筋の物語にリンクして進行させていく原動力となっているところはさすがだと思わせる。▼本作のハイライトは、ミーナのハンサムで魅力的な父親、朋子にとっては伯父さんが滅多に家に帰ってこない理由をつきとめようと、朋子がちょっとした冒険を試みようとする件だろう。▼朋子は直接訴える代わりに、ある印のようなものを置いて帰ることにする。▼そこには『妊娠カレンダー』で妹が姉のために作るグレープフルーツ・ジャムに込められたような悪意はなく、祈りに近い願いしかないように思える。▼だからこそ、読む者はそれが叶えられてほしい、誰も欠けないでいてほしいと一緒に願うことになる。▼小川洋子の作品を愛する者にとっては、この後いつものように深い淵のような展開が待ち受けているかもしれないと要らぬ心配をしつつドキドキして読み進めることになるのだが、(喜ばしいことに)それも杞憂に終り、驚くほど爽やかな読後感とストレートな感動をもたらしてくれる。
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by ok-computer | 2013-01-06 12:46 | | Trackback | Comments(0)
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