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ベートーヴェン『弦楽四重奏曲第14番』

▼ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番を聴く。▼この曲で思い出すのはミラン・クンデラの小説『存在の耐えられない軽さ』のワンシーン。▼主人公のテレザが出かけた弦楽四重奏団のコンサート。▼彼女を含めて聴衆は3人しかおらず、ホールよりもステージのほうが人数が多かった!というちょっと可笑しいエピソード。▼「音楽家たちはとても好意的で、コンサートを中止せずに、三人だけの聴衆のためにベートーベンの最後の三つの四重奏を一晩かけて演奏した」と書かれている。▼ウィキペディアによれば、この曲を聴いたシューベルトが「この後でわれわれに何が書けるというのだ?」と述べたという。▼実際、弦楽四重奏曲というジャンルにおいて、ベートーヴェンの晩年の曲群に匹敵する作品にはぼくもお目にかかったことがない。▼バルトークの6つの弦楽四重奏曲が対抗馬としてよく挙げられるが、じっさいバルトークのカルテットはもちろん素晴らしいのだけれども、クラシック史的な文脈において、ベートーヴェンのカルテットを前提にした素晴らしさだという気がする。▼一方、ベートーヴェンのそれは、何者とも較べる必要のない、むしろ較べようがないような孤高の極みに達してしまったかのような深みと凄みが感じられる。▼こう書くと何だかとても難解な音楽のように思えるかもしれないが、そういう人には13番のカルテットの第4楽章を聴いてみてほしい。▼ドイツ舞曲風の平易でロマンティックな旋律は分かりやす過ぎるくらいで、有名なところでは第九などが顕著だが(バッハのようにひたすら崇高というわけではなく)聖と俗との間を激しく揺れるのがベートーヴェンの魅力だといえる。▼今回聴いたのはアマデウス弦楽四重奏団による演奏。▼これをベートーヴェンのカルテットの第一に推すような人はまずいないだろうし、最初に聴いた演奏がゆえの完全な刷り込みだと分かってはいるのだが、なんとなく『存在の耐えられない軽さ』のチェコの町でテレザが聴いたのはこのような響きだったのではないかという想いがしてしまうのだ。

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by ok-computer | 2013-05-19 00:06 | 音楽 | Trackback | Comments(0)
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