bend sinister

『グラン・トリノ』

▼クリント・イーストウッドの『グラン・トリノ』を鑑賞。▼イーストウッドとは相性があまり良くないのだが、これは傑作だと思う。▼なにより『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』のような後味の悪さがないのがいい。▼とは言ってもハッピー・エンディングでは全然ないのだが、ちゃんと未来への仄かな希望を垣間見せてくれる。▼贖罪というのはこれまでもイーストウッド作品によく出てきたテーマだと思うけれど、今作はそこに人生の総決算というか、別れの手続きというか、死生観が色濃く出ているようで、(脚本を書いているわけではないものの)そこに80歳を超えたイーストウッド自身の姿を重ねないわけにはいかないだろう。▼さらには世代や人種間のギャップ、家族という概念やアメリカという国家の在り方(主人公の家のポーチにたなびく星条旗!)など、いくらでも深読みできそうな要素が盛り込まれているのだが、前述の2作品ほどには深刻にならず、映画前半におけるイーストウッドのあまりのクソジジイぶりや、それを意に介せず敷居を跨いでくるモン族の人々(特に女性陣)とのやりとりなど思わず笑ってしまうような箇所も散見されるし、アメリカ映画の伝統とも言える、主人公の成長物語(あまりに遅いが)のヴァリエーションのひとつとして観ることもできる。▼劇中、イーストウッドが若い神父に「お前は生と死について何も分かっちゃいない」というようなことを言うシーンがあるが、彼もまた迷える子羊であって、人生の最後に至るまではそれについて分かっていたわけではない。▼ラストはある意味、究極の死に方/贖罪の在り方だと言えるが、主人公がそこに至るまでの道程がきっちりと描かれているので非常に説得力がある。▼それらをこれみよがしではなく、さらっと描いているのがまた素晴らしいというか、こういうのは観る者すべてが白痴だと言わんばかりのどこかの国のテレビではありえないであろう観客を信頼した演出であり、実はこの方法論のほうが観る者のイマジネーションに訴え、結果的にはより大きな感動をもたらすことになる。▼『ミリオンダラー・ベイビー』のときにも感じたが、撮影監督トム・スターンによるフィルムの深い質感を生かした映像は相変わらず素晴らしくて、作品にさらなる奥行きを与えるのに多いに貢献している。

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by ok-computer | 2013-11-02 22:13 | 映画 | Trackback | Comments(0)
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