川田知志さんにとって、初の個展となった『Open Room』(アートコートギャラリー)では、「壁から剥がした壁画」というコンセプトのもと、見事に脱構築的な作品を披露されていましたが、そこから半年足らず、今回は迎英里子さんとの二人展という形式ですが、新たな展開と進化(=深化)の過程を感じさせます。
今回は会場のあまらぶアートラボがある尼崎市内の「小学校」「中学校」「結婚式場」「履物屋」の4つの施設(現在、元の用途では使われておらず、解体されるのを待つだけ、という共通項がある)をモチーフして、それぞれに異なる4つのアプローチを用いて作品を制作。
【room1】の展示では、元中学校の壁を使って「再構成」した作品と、新しい材を使って、元履物屋の壁を「再現」した作品とが並んで設置されています。会場に流れていたビデオの中の川田さん曰く「仕切っていた壁を、仕切っていたこと(用途)ではなく、仕切っていた状況を考えて制作した」とのことで、壁の実存的な不確かさではなく(何と言っても、それは目の前にあるのだから!)、概念的な不確かさを、実在の重みとともに提示した作品だという印象を受けました。その意味では、(展覧会タイトルの由来である)村上春樹というより、安部公房の知的遊戯めいた寓話性に近いものを感じます。
【room2】の「Open Room # 元結婚式場」では、会場にあったカーテンを用いた作品を制作するにあたって、トルソーをモチーフにすることを思いついたとのことで、素材に(より)立体的なかたちを与えることによって、不確かな確かさとでも言うべき、実存の重みを獲得することに(ここでもまた)成功しているように思えました。