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音楽の海岸

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2011/12/31

▼マレイ・ペライアによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ集を聴く。▼このディスクには、9・10・12・15番の4つのソナタが収められている。▼どれをとっても素晴らしいのだが、なかでも9番のソナタは、ジャン=リュック・ゴダールの映画『メイド・イン・USA』のなかで、第一楽章の冒頭部分が劇中に何度も、ともすれば偏執狂的なくらいに使われていたのを聴いて以来、思い入れが強い作品のひとつ。▼この曲はモーツァルトの影響が色濃いと思うのだけれども、ペライアの演奏で聴くとさらにその思いを強くする。▼ベートーヴェンといえば、その交響曲によって一般的なイメージが決定付けられているような印象があるが、ピアノ・ソナタや弦楽四重奏曲にこそ、その真価があると常々感じている。▼それらの深淵な世界を体験することによって、どちらかといえば祝祭的な性格の強い彼の交響曲に対しても違った向き合い方ができるような気がする。▼今年は「第九」があまり響いてはこない年末になってしまったが、ベートーヴェンの第九交響曲とは、聴力を失った男が人生の終わり近くになって書き上げた作品であるということに留意してみてもいいのかもしれない。

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by ok-computer | 2011-12-31 00:34 | 音楽 | Trackback | Comments(0)

ガス・ヴァン・サント『エレファント』

『エレファント』再鑑賞。▼1999年に起きたコロンバイン高校銃乱射事件を題材にしているが、事件の分析や謎解きといったものを期待するとまったく当てが外れてしまう。▼事件当日の加害者と被害者の一日をスケッチするといった趣きで、むしろテーマの掘り下げは浅いと言ってもいいくらいかもしれない。▼この映画の魅力は物語のなかにあるのではなく、物語を伝達する手段としての映像、またその切り口にあるのだと思う。▼すべてのシーンがアート写真のようにスタイリッシュなのだが、決して静的な映像ではなく、校舎内というロケーションを生かした移動カメラによる長回しが多用されている。▼これが実に効果的で、これほど美しい移動撮影はキューブリックの『シャイニング』以来ではないかと思わせる。▼ほかにも、広角カメラ、背景のぼかし、ハイスピード撮影、微妙なスローモーションなど、様々なテクニックが用いられており、映像的な見所は非常に多い。▼誰もが知っている事件ということは、観客は最初から物語がどう展開するのか分かっているわけだが、その悲劇的なエンディングに至るまでを切ないくらいに美しい映像で描くことによって逆に事件の残酷さがより際立ってくるのだ。▼ベートーヴェンの『月光』や『エリーゼのために』と、Hildegard Westerkampなどのサウンドアーティストによる音のコラージュとを組み合わせたサウンドトラックの設計も特筆される、ガス・ヴァン・サントのなかではいまだに一番好きな作品。
by ok-computer | 2011-12-26 21:04 | 映画 | Trackback | Comments(0)

2011/12/25

▼スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトによる『Getz/Gilbert』を聴く。▼話は少し遠回りになってしまうが、ジャズ好き/嫌いを隔てる理由のひとつにはアドリブ部分の捉え方があると思う。▼ジャズ好きにとってはアドリブはジャズの真髄だと言えるのかもしれないが、ジャズが苦手な者にとってはなぜあんなに延々とアドリブを聴かされなくてはならないのか、ということになってしまう。▼ぼくもかつては後者のように感じていて、それでジャズというジャンルにそれほどのめり込むことができなかったりもした。▼そんなジャズのアドリブに関する考えが変わったのは、クラシック音楽をある程度聴いてからのこと。▼アドリブって変奏曲に似ているかも、と思ったのだ。▼ぼくはアカデミックな意味での音楽については何も知らないのでこれはあくまでも感覚的な話で、本当は全然間違っているのかもしれないが、テーマ→アドリブ→テーマというジャズの構成が、バッハの『ゴルトベルク変奏曲』における、主題のアリアの後に30の変奏曲を挟んで、最後に再びアリアへと回帰するのにそっくりだ、と感じたのだ。▼それをきっかけにして、ジャズのアドリブに耳を傾けることがそれほど苦痛ではなくなってきたのだが、ここで言いたいのは、ある音楽を理解するときに別のジャンルの音楽の理解が役に立つ、ということである。▼そして、『Getz/Gilbert』に戻るわけだが、ぼくはずっとこのアルバムがあまり好きではなかった。▼ボサノヴァの代表的名盤として常に挙げられるアルバムでありながら、なぜこんなにも(ボサノヴァ的でない)スタン・ゲッツのサックスがフューチャーされているのか、その必然性がよく分からなかったのだ。▼今になってみると、これはとても折衷的なレコードだということが分かる。▼そもそも、このアルバムはボサノヴァを取り入れた『Jazz Samba』というアルバムの成功を受けて、スタン・ゲッツがボサノヴァの二大巨匠アントニオ・カルロス・ジョビンとジョアン・ジルベルトをゲストに迎えた、いわば企画モノ的なアルバムなのだ。▼そして、ジルベルトは歌とギターを、ゲッツはサックスを、あくまでも各自のスタイルを貫いて演奏しているので、ミスマッチになってしまうのは仕方のないことなのだ。▼それが純粋なボサノヴァ・ファン、あるいは純粋なジャズ・ファンからはこのアルバムがそれほど高く評価されない理由なのかもしれない。▼よく言われるのはゲッツがボサノヴァを理解していなかったということだが、彼がボサノヴァっぽく演ってしまうと、「スタン・ゲッツ」である意味がなくなってしまうので、そのミスマッチ感はこの企画の必然だったのかもしれない。▼要はそのミスマッチを不味いと感じるか面白いと感じるかということかもしれないが、ぼくの場合は先に書いたように、『Getz/Gilbert』→クラシック→ジャズ、という音楽変遷を経て、再び『Getz/Gilbert』へと回帰することによって、ようやくこの音楽を楽しめるようになった気がする。

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by ok-computer | 2011-12-25 23:59 | 音楽 | Trackback | Comments(0)

2011/12/18

▼リアル・エステイトの『デイズ』を聴く。▼ロックバンドらしからぬバンド名は、メンバーのマーティン・コートニーの両親が不動産業を営んでいること、彼自身も不動産業務の勉強をしていたことからネーミングされたのだそう。▼ニュージャージー出身ということだが、その音楽はティーンエイジ・ファンクラブやオレンジ・ジュースなどのグラスゴーのギターポップ・バンドとの親近性を感じさせる。▼バンド名にもじって言うならば、デザイナーズ・マンションのような感じ。▼あるいは洒落たカフェでボサノバに続けて流されても違和感のない感じ。▼oh~とか、du~とか、言葉にならないコーラスを多用しているのが印象的。▼特に気に入ったのは、ラストの「All The Same」の長い後奏部分。▼いくつかのギターの音が重ねられるが、基本は同じリズム・ギターのパターンが延々と繰り返される。▼それは単調ながらも静かな熱気と端正な美しさを醸し出す。▼冬の休日の午後、窓から差す日射しがつくるたまりのような音楽。

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by ok-computer | 2011-12-18 21:03 | 音楽 | Trackback | Comments(0)

村上春樹『ノルウェイの森』

▼村上春樹『ノルウェイの森』を読了。▼17~8年ぶりの再読。▼『海辺のカフカ』と『アフターダーク』が面白かったので、今読み返してみると違った印象を持つのではないかと期待したのだが。▼青春の生(性?)と死とが静かなトーンで語られていくが、幾分艶かしく感じられるような描写部分も。▼中年になった主人公の回想とともに物語は始まるが、ふたたび其処には最後まで戻ってはこない。▼以前は中途で投げ出されるような不満を感じたが、最近いくつか続けて村上作品に触れて、何もかもを説明したり、きっちりと落とし前をつけるタイプの作家ではないことが判ってきたので、そこは追及しない。▼おそらく村上春樹という作家は何かを訴えたいというよりも、何かを物語りたいという欲求のほうが強いのではないだろうか。▼物語の背景にあるものが見えにくいので、作家の思想や文体といったものよりも、ストーリーの魅力度合いによって作品が左右されてしまうような気がする。▼作品ごとの出来不出来が大きいと感じるのもそのためなのかもしれない。▼ラストシーン、主人公は電話をかけている場所で自分の立ち位置を見失ってしまう。▼再読した今回も、この物語は僕を何処にも連れていってはくれなかった。
by ok-computer | 2011-12-12 18:26 | 文学・本 | Trackback | Comments(0)

最近聴いた・観たもの。(『ペレアスとメリザンド』、『イースタン・プロミス』)

▼ドビュッシーの歌劇『ペレアスとメリザンド』を聴く。▼親しみやすい前奏曲やアリアもなく、いかにもドビュッシーらしいたゆたうような流動的な音楽が約2時間半にわたって繰り広げられる。▼初めて接する作品ではないが、聴くには集中力が必要なので、間隔を置いた2日間に分けて聴き通した。▼ドビュッシーとしては、ワーグナーへのアンチテーゼがあったということらしいが、禁断の愛を扱った物語や切れ目のない音楽の流れなど、『トリスタンとイゾルデ』に共通する部分もあると思うのだが、いかがだろうか?▼声楽部分ばかりを追いながら聴いていると、なかなかに把握しがたい。▼どちらかというと管弦楽に意識を集中して、ただひたすら音楽の流れに身を委ねることが理解への近道なのかもしれない。

▼デヴィッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』鑑賞。▼前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』とは善と悪との扱いが逆で、この2作は対になっている印象。▼ヴィゴ・モーテンセンを続けて主役に据えているので余計にそう感じる部分があるのかもしれない。▼イギリスを舞台に、ロシアン・マフィアについての映画を、アメリカやフランスやドイツの俳優を使って、カナダの監督が撮るという、いかにも現代的にグローバルな作品。▼クローネンバーグについては、『シーバース』『ザ・ブルード』『スキャナーズ』といった比較的初期の作品に思い入れがあるが、『イグジステンズ』以降は初期とは違った安定感のある作品が続いていて、なかでもこの『イースタン・プロミス』は最も完成度の高いものではないかと感じた。▼喉を掻き切るシーンのリアルさや、指を切断するシーン、全裸での格闘シーンなど、ストーリー的にここまで必要か?という描写もあるが、そこにこそクローネンバーグらしさが発揮されているのは、いつもながらのアンビバレンツ。

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by ok-computer | 2011-12-10 18:24 | 映画 | Trackback | Comments(0)