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音楽の海岸

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2012/5/14

▼ジョアン・ジルベルトの『Warm World Of Joao Gilberto - Complete Recordings 1958 -1961』を聴く。▼再発を巡ってジョアンとオデオン・レーベルとが係争している間に著作権が切れてしまった関係もあるのか、最近イギリスのエル・レーベルやイタリアのレコード会社などからジョアンの音源が色々とリリースされているが、そのなかでもスペイン発のこのディスクは決定盤だと言えるのではないだろうか。▼音源や曲順は係争のタネになっている『ジョアン・ジルベルトの伝説』に準じたものだが、「Maria Ninguem」のテープが伸びたように聴こえる箇所は修正され、さらに「Este Seu Olhar」の別ヴァージョンを加えた全39曲が収められている。▼アントニオ・カルロス・ジョビンがボサノヴァの創始者であることに間違いはないが、ジョアン・ジルベルトはボサノヴァを世界に広めるのに貢献した媒介者であり優れた翻訳者であったと思う。▼その囁くようなヴォーカル・スタイルは一瞬ヘタウマにも思えるのだが、注意して聴いてみると、決して簡単には真似することのできない、確かな技術に裏付けられたスタイルであることに気づく。▼かのマイルス・デイヴィスは「ジョアン・ジルベルトは電話帳を読んでも美しく聞かせることができる」と評した。▼これを体験してしまうと他のボサノヴァ演奏は喋りすぎているし、喧しすぎるように聴こえてしまう。▼世間的にはマイ・ブラディ・ヴァレンタインが話題だが、ぼくの2012年再発大賞はこのディスクに決まり。

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by ok-computer | 2012-05-14 23:07 | 音楽 | Trackback | Comments(0)

小川洋子『人質の朗読会』

▼小川洋子の『人質の朗読会』を読了。▼短編集のメリットは長編ほど読み手に(書き手にも?)集中力を要さず気楽に読めることにあると思うが、デメリットは一冊に収められた作品のなかに、どうしても出来不出来や好き嫌いが出来てしまうことではないだろうか。▼この本に収められた9篇についてもやはり同じことが言えて、すべての作品が傑作だとは言いかねるかもしれない。▼しかしながら、異国の地で人質になった8人の朗読会(+1篇)という体裁をとったこの連作短編集は個々の評価よりも全体を俯瞰することが要求されるために、通常の短編集に与えられる評価軸を巧みに回避することに成功している。▼文中にある「未来がどうあろうと決して損なわれない過去」という一節がこの作品のテーマのひとつだと言える。▼本書のイントロダクションを読めば分かるように8人に未来はないのだが、彼らがどう死んだかということよりも、どう生きたのかということに作者の眼差しは注がれる。▼それはメディアが扱う、記号や数字のようになりがちな「死」によって隠されてしまう、個々の「生」の匿名性とは対極にあるものだと言える。
by ok-computer | 2012-05-13 18:40 | 文学・本 | Trackback | Comments(0)

2012/5/5

▼バッハの無伴奏チェロ組曲を聴く。▼クラシック音楽のなかでひとつだけと言われれば、ぼくはこの曲集を選ぶかもしれない。▼第1番のプレリュードは誰もが知っている曲だろうし、作品全体としてもそれほど難解なものだとは思わないが、全36曲のそれぞれに深い思索と精神性とが秘められているようで、聴けば聴くほどこの作品が汲めども尽きることのない(チェロ一本で奏でられているにも関わらず)巨大なものであるような印象を強くする。▼今回聴いたのは人気チェリスト、ヨーヨー・マの2回目の録音盤。▼6つのサラバンドはこの曲集のなかでも白眉のものだとぼくは考えているのだけれども、マの演奏はこのサラバンドをどれも遅めのテンポでじっくりと弾いていて曲自体の持つ瞑想的な雰囲気を更に際立たせている。▼この演奏の特徴は調弦を通常よりも低めに設定していることで、そのせいもあって低音の迫力が凄まじい。▼しかし、これだけ低音が強調されても音楽はリズミカルで、決して重くはならないところがこの奏者ならではなのかもしれない。▼ヨーヨー・マの1回目の無伴奏チェロ組曲の録音については響きが軽すぎるように感じる部分もあったので、ぼくとしてはこの演奏のほうが好ましく感じられる。▼録音は演奏上どうしても出てしまうノイズをも含めてチェロから出る音はすべて収めようとする意欲的なもので、なかでも最後の一音がゆっくりと空間から消え去ってゆくさまが非常に美しく捉えられている。

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by ok-computer | 2012-05-05 12:11 | 音楽 | Trackback | Comments(0)