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音楽の海岸

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村上春樹『1Q84』

▼村上春樹の『1Q84』を読了。▼全3巻で1600ページを超える物語は、考えてみればドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を超えるボリューム。▼村上春樹が世界的に評価される理由のひとつには、現代において珍しく大長編を書ける作家であるということがあるのかもしれないと考える。▼ドストエフスキーの重厚長大に較べ、村上氏は軽薄長大というか、性や暴力や宗教を扱っていながらも、文体はどこまでも読みやすく、そのトーンはあくまでも軽い。▼そこを物足りなく感じる向きもあるだろうが、現代の小説芸術の在り方のひとつとしてこれもアリなのではないと思う。▼メディアに多く取り上げられ、たくさん売れた本だけに毀誉褒貶はなはだしいが、amazonのレビューなどを覗いてみると、「回収されない伏線が多すぎる」「性描写がねちっこすぎる」と(今さらながら)批判する人が多いのに驚かされる。▼それっていつもの村上春樹の特徴なんですけどね・・・。▼BOOK1の冒頭とBOOK3のエンディングが呼応する構成は村上作品としてはむしろ親切な作りになっているとぼくは感じた。▼『ねじまき鳥クロニクル』と『国境の南、太陽の西』の要素をミックスさせて、それぞれの欠点を補い合いつつ、SF風味を加えてヴァージョンアップさせた作品、というのが『1Q84』に対して受けた印象。▼質的に『海辺のカフカ』に優るとも劣らず、そこに分量を評価軸に入れるとすれば、これまでに読んだ村上作品のなかでも最上級の作品だと言っても差し支えないと思う。
by ok-computer | 2012-06-30 14:55 | | Trackback | Comments(0)

ケン・ラッセル『マーラー』

▼ケン・ラッセルの『マーラー』を(何度目かの)鑑賞。▼この作品と『恋人たちの曲/悲愴』とがケン・ラッセルの最高傑作の2本だと思っているのだが、どちらも作曲家の伝記映画であるところが興味深い。▼「マーラーを知らない人がこの映画を観るとマーラー像について誤解してしまう」というようなことが言われるが、ぼくはそうは思わない。▼じっさい、ぼくが初めてこの映画を観たときはマーラーについて何も知らなかったが、とても感動することができたし、これと『ベニスに死す』とがマーラーの音楽へとぼくを導いてくれたと言っていい。▼映画で扱われているエピソードの多くはマーラー・ファンであれば先刻承知のものなのだが、それがケン・ラッセル独特のデフォルメされたタッチで描かれるところが賛否両論分かれるところなのだろう。▼久しぶりに観直してみて、改めて気づかされたのは映像と音楽との絶妙なシンクロ具合で、今のようにデジタル技術が発達していなかった当時は、かなり綿密な計算とリハーサルとが必要とされたのではないかと推測される。▼また、うっとりするような美しい映像の後に、グロテスクで下劣なシーンを唐突に挿入してみせたりする、聖と俗の入り乱れたラッセルの奔放な想像力の飛翔が観る者を(良くも悪くも)圧倒してみせる。▼交響曲第6番第一楽章の第2主題、通称「アルマの主題」がマーラーと妻のアルマとを、そして物語をも救う道具として用いられる巧みさもさることながら、「We're going to live forever!」と語るマーラーが大写しでストップモーションとなる幕切れは(何度観ても)気高くも痛切なる哀しみを誘う。
by ok-computer | 2012-06-10 22:28 | 映画 | Trackback | Comments(0)