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音楽の海岸

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レイモンド・チャンドラー『さよなら、愛しい人』

▼レイモンド・チャンドラーの『さよなら、愛しい人』を読了。▼清水俊二訳の『さらば愛しき女よ』もずっと昔に読んでいたのだが、その良さがまったく分かっていなかったので、村上春樹による新訳によって再読する機会を持てたことに感謝しなくてはならない。▼チャンドラー独特のまわりくどい比喩はいつものことながら、後年の『ロング・グッドバイ』に較べると表現の洗練度合いは落ちるように感じるし、ストーリー展開もいくぶん滑らかさに欠け、ゴツゴツとした手触りの作品になっている。▼『ロング・グッドバイ』のテリー・レノックスもそうだったが、この作品のへら鹿(ムース)マロイもその強烈な存在感に関わらず、登場場面は思ったより少ないのが意外だった。▼テリーにしろマロイにしろ、物語の脇役において少なからぬ印象を読者に与えることのできるキャラクター造形に長けているのはチャンドラーの強みだったと思う。▼正直言って、再読した今回も途中までは読みづらいし退屈する部分もあったのだが、それが最後の数十ページで一気に覆されることになった。▼それまでののらりくらりとしたペースとは打って変わって、大胆で鮮やかなトリックがアッチェレランドで展開し、美しくも哀しい最後の和音は読む者の心の中でずっと引き延ばされるように響くのだ。
by ok-computer | 2012-10-29 22:25 | 文学・本 | Trackback | Comments(0)

レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』

▼レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』を読了。▼村上春樹による新訳版。▼『リトル・シスター』のときにも書いたが、村上春樹の文体はチャンドラーのそれに似ていると思う。▼ときとして回りくどいくらいの比喩表現や、本筋と関係ないところの綿密な描写など、村上春樹が訳しているから彼の作品に似たテイストになるという以上の近似性を感じさせる。▼そしてこの新訳の最大の功績は、これまでの清水俊二版『長いお別れ』ではカットされていた部分をすべて復元したという点にあるだろう。▼チャンドラーの作品はストーリーそのものと同じくらいに細部の表現が重要なのでその意味でもありがたい。▼内容的にはいまさら云々する必要のない見事なものだが、以前(清水訳で)読んだときに感じていたよりもずっと、重要なキャラクターであるテリー・レノックスの登場する場面が少なかったのが意外だった。▼しかしながら、テリーの不在は、その存在と同じくらいの重みを持って、周りの人間の行動に少なからぬ影響を最後まで与え続ける。▼それはまるで物語の通奏低音のように。
by ok-computer | 2012-10-08 12:12 | 文学・本 | Trackback | Comments(0)

2012/10/2

▼ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第7番「大公」を聴く。▼ピアノ三重奏曲というジャンルのなかで最も重要なレパートリーであるにも関わらず、ちゃんと聴くのは今回が初めて。▼村上春樹の『海辺のカフカ』のなかで、星野青年が立ち寄った喫茶店で耳にして以来お気に入りの一曲として登場する。▼『海辺のカフカ』もベートーヴェンも好きなのに、その時はなぜか聴こうという気がおきなかった。▼このたび改めて聴く機会を持つことになって、ベートーヴェンにはぼくが知らなかったこんなに素晴らしい作品がまだあったのかと驚嘆している。▼ヒロイックな第一楽章、瞑想的な第三楽章、いずれもこれぞベートーヴェンの室内楽!という充実した内容となっている。▼ぼくが聴いたのはスーク・トリオによる2回目の録音盤。▼70年代の録音に関わらず、DENONによる初期デジタル録音のためにヒスノイズが存在しない。▼強奏時の鋭角的な響きが若干気になるところもあるが、まずは優秀録音といって間違いないと思う。▼とくにピアノの音が美しくて、録音のせいか、奏者のせいか、おそらくその両方だろう。▼LP時代の内容そのままなので、「大公」1曲のみの収録時間は40分にも満たないが、深い満足感を与えてくれるディスクだ。

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by ok-computer | 2012-10-02 18:27 | 音楽 | Trackback | Comments(0)