bend sinister

<   2018年 11月 ( 7 )   > この月の画像一覧

朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』

 朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』を読了。

 テレビのトークバラエティで、現代における文学の立ち位置や他人の作品に対する氏の鋭い考察を聞いて、「これだけの分析力を持った人であれば、作品自体も面白いかも?」と思ったのが本書を手に取ることになったきっかけ。

 結論から言うとこれはなかなか面白かった。文体や物語設定はエンタメ小説的だが、登場人物の内面描写の鋭さや作品構成の面白さは純文学のそれで、両方のいいとこ取りと言っていいような小説であると感じた。もっとも、この美点はそのままこの作品の欠点だと言い換えることも出来るというか、つまりは、どっちつかずの中途半端な作品だと言えなくもないのだが、ぼくにとってそれは瑣末なことであって、美点のほうが遥かに大きく感じられた。

 この小説のユニークな点のひとつは、タイトルになっている「桐島くん」は会話やモノローグの中で言及されるのみで、物語に登場することが無いところ。この手法はどこか映画的で、同じくタイトルになっているにも関わらず、最後まで顔が映らず、ずっと死んだまま(!)のヒッチコックの『ハリーの災難』を思い出した。登場人物のひとりが映画部の部長で、彼の目を通して描かれる章では、「『メゾン・ド・ヒミコ』もよかったし、やっぱ犬童一心最高!」「レンズを通して見る世界は、普段は見えない感情に満ちていてとてつもなく美しい。」というようなシネフィル的な記述に満ちているので、意識している部分もあるのかもしれない。

 また、平野啓一郎的に分析してみるならば、「桐島くん」の周囲の人間の、「桐島くん」との関係性の中で生じたそれぞれの<分人>が全編に渡って描かれている、と看做すことも出来そうだ。その複数の、桐島くんとの<分人>が小説的に集積されているために、本人不在であっても、小説が終わった後にはちゃんと「桐島くん」の人となりみたいなものが立ち現れてくる仕掛けになっている。

 その文体は軽いを超えて、最初はチャラいくらいに感じられたのだが、読み進めていくと、そこには計算があり、ちゃんとコントロールも効いていることが分かってくる。「宮部実果」の章のクライマックスでは、もっと泣けるように持っていくことも可能だったはずだが、おそらく全体のバランスを考えて、抑制をはたらかせている(つまり、手紙の内容を明かさない)ところなど、この作品を世に出したときに朝井氏がまだ19歳だったことを思えば、上手過ぎて小憎たらしくなってしまうほどだ。

 子どもでもなければ大人でもない、16でもなければ18でもない、17歳の高校生たちの揺らぎみたいなものが、この小説では実にヴィヴィッドに切り取られている。朝井リョウが19歳だったことを、作品の技術的なエクスキューズにする必要はまったくと言っていいほど無い。それよりも、<17才の記憶>が薄れてしまう前に、ノスタルジーという甘い罠に塗り替えられてしまう前に、作者がそれを小説として真空パックしてみせたことに大きな意義と、かけがえのない魅力を感じる。

f0190773_08373145.jpg

[PR]
by ok-computer | 2018-11-30 08:38 | | Trackback | Comments(0)

毛利桂 ライブ・パフォーマンス@秋の電子音響祭2018(大阪芸術大学)

 毎年密かな愉しみにしている、大阪芸術大学の「秋の電子音響祭」に行ってきました。今年の大トリは、国内外で活躍する、レコードを使わない(?)エクスペリメンタル・ターンテーブリスト、毛利桂さんが登場。

 進行上のドタバタや、ひとつ前の学生パフォーマンスのユルい雰囲気がまだ残るなかで、毛利さんが最初の一音を鳴らした途端に空気が一変。その後約15分間に渡って、まるで金縛りにあったように、観る者聴く者が一時も目と耳を離せない高い緊張感に貫かれたパフォーマンスを披露。メチャメチャ格好良かった!

 ビデオのプアな音ではその衝撃を充分に伝えることができないのがもどかしいですが、4分55秒辺りからの約1分間の怒濤のノイズ、そして、ジミー・ペイジが好きで、ギターみたいにターンテーブルを操りたい(実際、ターンテープルのアームをギターのアームのように使ってプレイしていた)と仰っていた最後の毛利さんの話などに注目してもらいたいです。

 大芸大の先生が毛利さんを「本気でノイズを演っている人」と紹介していたことが印象的で、かつ得心が行きました。近所で気軽に(しかも無料で)こんな貴重なパフォーマンスを見せもらえるなんて、さすがは大芸大、ありがとうございました。
f0190773_21574699.jpg
f0190773_21591265.jpg
f0190773_21594413.jpg




[PR]
by ok-computer | 2018-11-24 22:01 | 音楽 | Trackback | Comments(0)

palla/ 河原和彦 個展「CONNECTION」(Gallery Kai/大阪市中央区)

 コンピューターの仮想空間内で生成されたイメージによる映像と平面作品。細いラインの集合体を絵筆のストロークに看做し、それを一定の規則性によって空間内で律動させることによって仮想彫刻とでもいうべき構造物を描いていく。建築家的な視点と方法論をアートの文脈へと落とし込もうとする、近年の河原さんの活動の集大成ともいえる、エッセンスのみが抽出されたようなモノクロームの世界が美しい。

 なお、河原さんのご厚意で、生まれて初めて「オープニングパーティー」なるものに参加させていただきました。素性の知れない方(笑)も多数いらっしゃいましたが(まあ、向こうもぼくのことを同じように感じていたでしょうが)、色々なお話しが聞けて、楽しい時間を過ごすことができました。河原さんと、ギャラリーオーナーの門坂さんに感謝!また誘ってくださいー。

f0190773_11073674.jpg
f0190773_11080076.jpg
f0190773_11082406.jpg
f0190773_11084467.jpg
f0190773_11090060.jpg
f0190773_11091243.jpg
f0190773_14425681.jpg



[PR]
by ok-computer | 2018-11-23 23:59 | アート | Trackback | Comments(0)

平野啓一郎『日蝕』

 平野啓一郎『日蝕』の感想を『日蝕』風の文体で書いてみる。

 これより私は、平野啓一郎『日蝕』の個人的な感想を録そうと思っている。人はこの頗(すこぶ)る難解な書に対して、径(ただ)ちに嫌悪を挿むであろう。私はこれを咎めるものではないが、冀(こいねがわくは)、この書を単行本よりもルビの多い文庫本で読むことを進言したいと思う。然(さ)すれば、辞書を引く手間も幾許か省かれるであろう。

 抑(そもそも)、初期の平野啓一郎が三島由紀夫の影響を受けていることには論を須(ま)たない。『日蝕』は、『金閣寺』の仏教(日本)をキリスト教(中世フランス)に、金閣寺への放火を魔女狩りに置き換えて、脱構築、あるいは記号論的分析を試みたと看做すことも出来るのではあるまいか。更に云えば、三島が『金閣寺』を著すにあたって参照したと謂われる森鴎外の姿も其処からは透けて見えてくるのである。

 その晦渋な文体は、物語世界に浸らんとする読者に常に覚醒することを求め、その衒学性が為に中途で停滞せんこと能わぬのである。慥(たし)かにこの文体故にこそ『日蝕』と云う書は際立っている。然(しか)し乍(なが)ら、斯様な面ばかりに囚われることは太陽を裸眼で見遣れば盲になるが如く、本質へと迫る視点が失われるとも思うのである。

 本書の最高潮たる、日蝕の蒼穹(そら)の下で処される焚刑の場面の迫力は筆舌に尽くし難いが、其処に先立つ、神学僧ニコラが洞内で石に縛(いまし)められた両性具有者(アンドロギュノス)と初めて出会(でくわ)す際の、この世界の裡なる別の層が裏返って露になったが如き、美とエロチシズムとの名状し難い一体性の顕現にこそ本書の真髄を見る想いがするのである。

 『日蝕』を十全に理解したかと問われれば、否、と答えるしか無い。しかし、徒(いたずら)にこう思ってみるのである。
 蓋(けだ)し、アンドロギュノスは金閣寺の夢を見たのではないか、と。

f0190773_08085750.jpg

[PR]
by ok-computer | 2018-11-23 08:09 | | Trackback | Comments(0)

平野啓一郎『かたちだけの愛』

 平野啓一郎については、毎回ガラっと変わる物語設定や、初期とその後との文体の変化などがよく指摘されるが、何冊か読み進めていけば、そういった表面上の差異を超えて、一貫したテーマが複数の作品の中に通奏低音のように流れていることに気付かされる。なかでも「生き直す」と「愛し直す」という概念は、平野作品を読み解く上で重要なキーワードになっているように思える。

 この『かたちだけの愛』では、叶世久美子という、事故で片足を失った女優(タレント?)が諦めかけた人生に再び光明を見出していく過程と、相良郁哉という、離婚を経験し愛を見失ったプロダクト・デザイナーの男が(相手を変えてではあるが)人を愛するという感情(概念)を取り戻してゆく姿とが、同時並行的、あるいは混ざり合う形で、実にきめ細やかに描かれていく。

 そのハイライトは何と言ってもラヴェルのピアノ協奏曲第二楽章をバックに主人公の二人の手がわずかに触れ合うシーン。愛の始まりをこれほど格調高く、かつ美しく表現した小説を他に知らない。『マチネの終わりに』でもそうだったが、音楽を小説的に表現していく上での、緻密な描写とその言葉の選択の巧みさについてもまた比類がないくらいに素晴らしい。(単行本では)143ページ後半から144ページにかけての、「二人の関係の余白を、音楽がその透明な糸でやさしく縫い合わせていく」一連のシークエンスはまさに絶美と言っていい。(ちなみにこの場面で流れるのは、クリスティアン・ツィメルマンのピアノとピエール・ブーレーズ指揮クリーヴランド管弦楽団による演奏で、ぼくも愛聴している盤だったので嬉しかった)

 主人公たちの職業を反映して、専門用語やブランド名/アーティスト名などの固有名詞が続出し、村上龍のある種の作品のように記号論的な趣もあるにはあるが、「断端」や「幻痛」といったあまり聞き馴れない言葉が、小説の中で繰り返し使われていく内に、展開される物語のテーマと密接に絡み合って、単に名称や症例を顕す以上の隠喩的な意味合いを帯びてくる(帯びさせてゆく)のを読んでいると、(平野氏についてよく言われる)「知識のひけらかし」などという誹りはまるで見当違いであることを確信させるとともに、言葉の力を信じ、その言葉をクリエイティブかつ自由に操ることのできる小説家のみが辿り着くことのできる深遠を垣間見させてくれる。

 入り組んだ物語、張り巡らされた伏線、それぞれが独立的な複数のテーマの同時進行(ポリフォニー)、さらには、前述のラヴェルのコンチェルトや、谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』と『刺青』、そしてエイミー・マリンズ(アメリカの義足のアスリート/女優)への言及など、一見作家の興味の赴くままに並べられたかのような諸要素が、小説が後半に向かうに連れてパズルのピースのように有機的かつ意外な驚きを伴って繋ぎ合わされてゆき、最後には一幅の大きな絵が完成する。それは(登場人物の台詞を借りれば)「目覚めたまま見る夢」であり「この瞬間が、永遠に続いて欲しいと思うような夢」でもある。そして、作者である平野啓一郎は、その<愛の夢>を小説という形で永遠に定着させてみせたのだ。
f0190773_17573384.jpg

[PR]
by ok-computer | 2018-11-12 18:00 | | Trackback | Comments(0)

2018年の(暫定的)ベストソングを並べてみる

Let's Eat Grandma - Hot Pink


King Princess - 1950


Mitski - Nobody


The Internet - Come Over



The 1975 - TOOTIMETOOTIMETOOTIME


Gorillaz - Humility


Sunflower Bean - Only A Moment


Tom Misch - It Runs Through Me (feat. De La Soul)


Jon Hopkins - Singularity



[PR]
by ok-computer | 2018-11-01 23:17 | 音楽 | Trackback | Comments(0)

村田沙耶香『地球星人』

 村田沙耶香『地球星人』を読了。

 『コンビニ人間』を読んで感激し、その後『殺人出産』を読んでよく分からなくなったため、芥川賞受賞後初となるこの作品は期待半分不安半分で手に取った。

 結果、『コンビニ人間』よりは『殺人出産』寄りの作品であり、タイトルから想起されるSF的な文脈においては、平野啓一郎『ドーン』よりも安部公房『人間そっくり』寄りの作品で、いわば作家の「脳内SF」とでも形容したくなるような内容となっている。

 その内容を端的に言ってしまえば、「あなたがたは地球星人だと言い切れるのですか?」。恐ろしく受け身で無抵抗主義な主人公(『コンビニ人間』や『殺人出産』の主人公に通じる)の言動や(ポハピピンポボピア星人としての)目を通して、常識、普通、正義、道理といった通常の倫理観や社会規範に揺さぶりをかけてくる。

 『コンビニ人間』は作者自身が勤務経験のあるコンビニを舞台としたことで広く共有/共感できる内容となっていたが、今回は再び脳内世界へと回帰してしまっている。小説家としてのキャリアを考えた場合、それは賢明な判断だとはとても言えないように思えるが、『コンビニ人間』100万部の読者を奈落の底へと叩き落とすのも構わずに、その作家性をあくまでも貫き通したことは、「普通」や「常識」を心底忌み嫌う(ように見える)この作者に相応しいのではないか。

f0190773_21212517.jpg

[PR]
by ok-computer | 2018-11-01 21:22 | | Trackback | Comments(0)