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音楽の海岸

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最近読んだ本(『ひよこ太陽』『金閣寺』『服従』ほか)

柳美里『JR上野駅公園口』

死者の視点によって、時空間を行き来しながら、点描画的、或は被写界深度の浅い写真を集積したような、独特の幻想的な作風。「在るひとに、無いひとの気持ちは解らない」ことの表れか、主人公の内面描写は比較的浅め。幸福な結末を期待した訳ではないが、やはり切ない。

田中慎弥『ひよこ太陽』

田中さんの作品は初読み。イメージとは異なり、此処には性も暴力も無いが、その予兆の孕みのようなものは慥かに感じられて、なるほどこれが現代の無頼というものなのかもしれない。芥川賞受賞会見は個人的には逆効果だったが、この本で一気に挽回。他の作品も読んでみたくなった。

三島由紀夫『金閣寺』

初めて読んだ高校時代には、士官の前で女が茶の中へ白い乳を迸らせる場面で、無理!と投げ出したのだが、今読み返してみると、一つひとつの要素は異様であったとしても、それらエピソードの有機的な積み重ねによるクライマックスへと至る、その物語運びの巧みなことに驚かされた。平野啓一郎は「『金閣寺』と出会わなかったら小説家になっていません」と語っているが、僕は逆に、平野作品に出会さなければ『金閣寺』を最後まで読み終えることは出来なかっただろう。投げ出したくなる度に、平野さんが僕を鼓舞し、励ましてくれたような気がする。

ミシェル・ウエルベック『服従』

ユイスマンス研究を専門とし、女子学生と気ままな関係を弄ぶ飄々とした大学教授を主人公に、極右かイスラームか、という究極の選択の末に、イスラーム政権が成立した2022年という超近未来のフランスを描く。ミイラ取りが何とやらで、ユイスマンスの人生を奇妙になぞってゆくかのようで、結局のところ、ユイスマンスは「改宗」だが、この主人公は「服従」であるということか。途中に描かれるテロが最後まで読んでも動機も犯人も判然としないのが不気味だ。

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by ok-computer | 2019-08-11 09:38 | 文学・本 | Trackback | Comments(0)

『Depth 2019』(大野浩志・岡本里栄・山崎亨)@ Oギャラリーeyes

 山崎さんによれば、作家の組み合わせはギャラリー側のチョイスで、「仲良し3人組ではない」とのことですが、微妙にシンクロ、またはリンクする部分があったのが面白かったです。また、ぼくがお伺いしたときには、3人とも在廊されていて、それぞれに興味深いお話を聞けたので以下にメモします。


山崎亨さん
『眼のドライブ-Lose focus』(1・2枚目)『眼のドライブ-此処彼処』(3枚目)

 ぼくだけでなく、ギャラリーに来る多くの方に「これは絵ですか?」と質問されていました(笑)。部屋の明るさとライティングの調整によってモノクロに近い環境を整えながらもカラーで撮影している、そして越前和紙にインクジェットでプリントしていることなどが、その絵画のような質感をもたらしているのかもしれません。

 作品は、紙による造形物を写真で撮ったものを提示しているのですが、なぜ立体作品そのものを展示しようとしないのですか?と質問したところ、「20年ほど立体作品に取り組んでいたが、結局その立体作品もカメラで撮って残していくことに気づいた」、また「写真のほうが多角的に表現できる」とのことでした。立体作品を、写真という本来フラットなはずのメディアに収めながら、ボカシを効果的に使って改めて立体的に表現する、というメタ構造的な提示方法が見る者に考える機会を提供することになり、刺激的だと感じます。


大野浩志さん
『在り方・現れ方 2019A-5』(4枚目。2019A-6だったかも?)

 棒を配した画面が真っ黒に塗られており、よく見るとその画面上には、夜の海に立つさざ波のようなスジが入っている。ご本人に「これは何を表現しているのですか?」と聞けば、何を表現するのではなく、自然とそこに現われるものを提示しているという旨のことを仰っていて、技法的には、支持体(木)に、ペインティングナイフを使って、油絵具(黒だと思ったが、プルーシャンブルー)で「縦に」何度も何度も繰り返し重ね塗る。そうすると(不思議なことに)水面に立つ波のような模様が「横に」現われるとのこと。

『BLUE 18-A1、BLUE 18-A2』(5枚目。18-B1、18-B2だったかも?)

 紙とアクリル板にアクリル絵具を塗って、デカルコマニーの手法で作成されたイメージを、紙の上にアクリル板を重ねる形にして展示。自然発生の葉脈のような模様が印象的。デカルコマニーなのに、左右のイメージに大きな差異があるのは、紙を乾かすときに水平にするのと、立てて乾かす(つまり、絵具が流れ落ちる)ことによって生まれているとのことでした。


岡本里栄さん
『Pillow and towels』『Summer blanket』(6・7・8枚目)『Blue striped shirt』(9枚目右)

 これまでの岡本さんの諸作品からは想像できなかった、「青」が一際目を惹きます。しかも岡本さんだけに、その「青」は普通の青であるはずもなく、「岡本ブルー」とでも表現したくなるようなものです(ご本人はコバルトに近い色を作ったと仰っていましたが)。

 今回、青を使ったのは、そもそもシーツが青だったこともあるが、この6月に奈良で開いた展覧会以来、対象を引き寄せるのではなく、自身の作品を対象に引き寄せるというのもいいのではないか、と思ったとのことです。

 また、以前「人」をモチーフに描いていたときには、肖像画とは違うことを強調したくて横画面を採用していたが、今回のように「身体の抜け殻」を表現するときには「人の不在」を感じてもらいたくて、あえて肖像画のような縦画面を採用している、というのも興味深く、特に此処に記しておきます。

 以前、岡本さんにお会いしたときに、「作品の原動力となっているのは怒りだが、描いているときは無心になっている」という旨のお話を聞いて、それをずっと考え続けているのですが、なるほど、この「青」は無心の境地を表現したとも受け取れるのですが、写真ではなく、実物を見ていると、そのタッチはますます奔放に、荒々しいと言ってもいいようなものになっていることが確認できて、「怒り」から「無心」への昇華の過程をそこに見ることもまた可能だと思いました。

 岡本さんといえば、アキーラとユポという、画材と支持体の目新しさが一番に取り上げられがちですが(また取り上げやすいのですが)、そろそろ論じる側がその点を克服しなければならないレベルに達しつつあるのではないでしょうか。岡本さんにははっきりとは伝え損ねたのですが、『Summer blanket』と『Pillow and towels』に関して言えば、贔屓目抜きに、傑作だと思います。

 ※写真はスマホで撮ったものです。

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by ok-computer | 2019-08-04 13:14 | アート | Trackback | Comments(0)